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損害賠償請求権者

人身事故の場合の原則

賠償請求権者は、人身事故の場合、傷害・後遺障害事案においては、原則として被害者本人です。被害者が死亡した場合においては被害者の相続人が請求権者となります(相続説。大判大15・2・16民集5‐ 150)。

近親者1(近親者の慰謝料)

慰謝料に関しては、民法は、生命侵害の場合に、被害者の父母、配偶者および子につき固有の慰謝料請求権を認めています(民法711条)。

かつては、慰謝料請求権はその一身専属性から、被害者が生前にそれを行使する意思を表明していた場合に限つて相続されるというのが判例の立場でしたが(大判明43・10・3民録16‐ 621)、その後、最高裁大法廷昭和42年11月1日判決(民集219‐ 2249)は、被害者の意思表明の有無にかかわらず、被害者は損害発生と同時に慰謝料請求権を取得し、死亡によって当然に相続されるとして、被害者自身の死亡慰謝料請求権とその相続性を認めました。したがって、民法711条は、現在では、被害者自身の慰謝料請求権と並んで、近親者固有の慰謝料請求権を認めたものと解されています。

さらに、最高裁昭和33年8月5日判決(民集12-12‐ 1901)は、後遺障害事案においても、近親者が被害者の「死亡にも比肩し得べき精神的苦痛」を受けた場合には、近親者固有の慰謝料請求権を認めています。したがって、このような場合は近親者も慰謝料請求権者となります。

固有の慰謝料請求権が認められる「近親者」の範囲であるが、民法は上記のとおり、「父母」、電己偶者」および「子」に慰謝料請求権を認める旨明記していますが、裁判例をみると、これ以外、たとえば祖父母、内縁の妻や兄弟姉妹にも認めるものも少なくなく、実務上は、「父母」、晴己偶者」「子」と実質的に同視できる近親者にも固有の慰謝料請求権が認められる場合があるといえます。

近親者2(財産的損害)

事故の直接の被害者ではない被害者の近親者が、事故により財産的損害をこうむったとしても、それは間接損害として、近親者の加害者に対する賠償請求は認められないのが原則です。ただし、次のような例外があります。

  • まず、被害者が事故により死亡した場合の葬儀費を近親者が支出したときは、近親者の損害として認められる(ただし、被害者自身の損害として構成されることも多い)。また、遠方にいる近親者が看護や見舞い等にかけつけたような場合の費用(航空運賃等)も近親者の損害として認められることがある(京都地判平3・4・24自保ジャ939‐ 2)。
  • 次に、近親者が立替払いした被害者の治療費、通院交通費等については、通常は被害者自身の損害として認められるが(最判昭32・6・20民集11‐6‐ 1093等)、近親者自身の損害として請求すれば認められることもある。被害者が重傷であったり幼児である等のため、近親者が被害者の入院や通院に付き添つた場合には、(ほとんどの場合は基準により定額化された金額の範囲内で)付添費用が被害者自身の損害として認められることとなるが(最判昭46・6・29民集25‐ 4‐ 650等)、まれに、近親者が休業して付き添った場合には休業損害額相当が被害者の損害として認められたり(大阪地判平15・4・18交通民集36‐ 2‐ 526等)、あるいは、休業損害額が、近親者自身の損害として認められる例もあります(東京地判平22・2・12自保ジャ1829‐ 83等)。

なお、最近では、被害者(特に幼い実子など)の悲惨な死亡事故を目の前で目撃した母親等の近親者がPTSD等の精神疾患に罹患したとして、その治療費や休業損害の請求がなされるケースもときおり見受けられます。裁判例では、そのような近親者の損害は間接損害であるとして否定されることがほとんどであり、近親者固有の慰謝料のみ(ときには若干増額されて)認容される例が多いですが(東京地判平15・12・18交通民集36‐ 6‐ 1623、東京地判平20・7・7交通民集41‐4908等)、まれに、治療費程度であれば、事故と相当因果関係を有する損害として、近親者自身の損害として認められている例もあります(東京地判平19・12・17交通民集40‐ 6‐ 1619等)。

近親者以外(企業損害)

企業損害については、一般に次のように整理されています。

  • まず、被害者である従業員や役員の休業中、被害者の生活保障のために給与等を支払い続けた会社が、加害者にこれを請求するような場合(いわゆる肩代わり損害)である。このような会社の請求権が認められるという点についてはほぼ争いがありません。
  • これに対し、会社の役員や従業員の体業により会社自体の収益が悪化したり、大きな取引を逃したというような場合に、会社の利益の減少を損害として加害者に賠償できるかという問題があり、これが一般に企業損害といわれるものです。
    企業損害については、全面否定説、原則否定説、相当因果関係説、債権侵害説など、様々な学説があるが、判例は、企業は間接被害者であるとして、企業の請求を原則否定し、例外として、最高裁昭和43年H月15日判決(民集22‐ 12‐ 2614)が、形式上会社という法形態をとったにとどまる実質上個人の企業であつて、実権は代表者個人に集中し、代表者に会社の機関としての代替性がなく、代表者と会社とが経済的に一体をなす関係にあるような場合には、事故と代表者の受傷による会社自身の損失との間に相当因果関係が存するとして、企業損害の賠償請求を認めました。

被扶養利益の侵害

被害者が死亡した場合、相続人以外の者で被害者から扶養を受けていた者(内縁の妻、相続放棄した相続人や、離婚後の被害者と同居している両親など)は、被扶養利益を喪失したとして、加害者に対し、その損害の賠償を請求できる場合があります。

物損事故の場合

物損事故の場合、損害賠償請求権者は、被害目的物の所有者です。

リース車両や所有権留保車両の場合が問題となる。基本的には所有者(所有者として登録されている者)が損害賠償請求権者となるが、車両使用者が修理代金を全額支払済の場合の修理代や、割賦販売により所有権が留保された車両につき使用者が売買代金を完済した場合などは、使用者に賠償請求権が認められる場合もあります。

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