自動車の借主が自ら自動車を運転し、事故を起こした場合、その借主は運行供用者にあたります。
自動車を貸した所有者等の責任についても、自動車の所有者は、自らの意思で他人に自動車の支配を委ねたのですから、借主の運転は所有者の意思に基づくものといえ、借主による運行についても、所有者は基本的には運行支配を失わないものと考えられます。
問題は、使用期限、あるいは貸借期限が経過したにもかかわらず、借主が自動車を返還しないような場合です。このような場合には、借主の運行は、もはや所有者の意思に基づくものとはいえないと評価できるとすると、所有者は運行支配を失つているともいえそうです。しかし、裁判例をみると、貸与の目的や期間を超えただけでは運行供用者責任は否定されず、所有者が借主に対し、返還請求を何度も行い、警察に届け出るなど、自動車を取り戻すための努力を行ってもなお返還が受けられなかった場合にはじめて、運行供用者性を否定するものが多いです。
たとえば、自動車の所有者に対し、2時間後に返還するとの約束の下に自動車を無償で借り受けた者が、その後約束に反し約1か月間にわたってその使用を継続して事故を起こした場合に、借受人は、長時間乗り回す意図の下に所有者を欺いて自動車を借り受けたこと、返還期限を経過した後も、その場しのぎの約束をして返還を引き延ばしていたこと、所有者には自ら直接自動車を取り戻す方法がなく任意の返還に期待せざるをえなかったという事案で、所有者の運行供用者性を否定したもの(最判平9・11・27判時1626‐65)などがあります。
又貸しの場合、特に、自動車の借主が、所有者に無断で、さらに第二者に自動車を貸与した場合にも、所有者は運行支配を失わないといえるかは、別途問題となります。
最高裁昭和53年8月29日判決(交通民集11‐ 4‐ 941)は、親がその所有する自動車を遠方に居住する子に貸与していたところ、子の友人がこれを借り受けドライブ中に無謀運転をして同乗者を死亡させたという事故につき、親の運行供用者性を肯定した原審の判断を是認しました。
具体的な事例における判断では、所有者が自動車を貸与した事情や借主との人的関係の内容、程度から、又貸しを所有者が容認していたといえるかどうかが、判断の際に重視されているといえます。
レンタカーの場合、個人的な自動車の貸借とは異なり、貸主と借主との間には人的に親しい関係がないのが通常です。そこで、レンタカーの借主の運行による事故について、レンタカー会社がなお運行支配、運行利益を有しているかといえるかが問題となります。
自動車の貸主の責任同様、判例は、レンタカー会社の運行供用者責任についてもこれを肯定しています(最判昭46・H・9民集25‐81160、最半J昭50・5・29判時783-107等)。レンタカー会社は、自動車を貸す際に、借主の利用資格を審査し、貸与期間中も借主に様々な契約上の義務を課しており、また、利用時間は短時間であることが多いこと等から、貸与後も基本的には自動車の運行支配・運行利益を失わないものと考えられます。
東京地裁平成19年7月5日判決(交通民集40‐ 4‐ 849)、仙台地裁平成20年5月13日判決(自保ジャ1768-16)は、借主が自殺目的でレンタカーを借り受け、貸与期間内に未必の故意をもってレンタカーで他人を殺傷したという事案でも、レンタカー会社の運行供用者性を肯定しました。これらの判決は、レンタカーの借主がレンタカーを運転中に交通事故を起こし他人の生命身体を害したときに、
としてレンタカー会社の運行支配および運行利益を肯定したものです。
レンタカー会社の運行供用者責任が否定される場合としては、借主による事故の場合と同様、返却期間を過ぎてから発生した事故が考えられます。たとえば、大阪地裁昭和62年5月29日判決伴J夕660‐ 203)は、貸与期間5.5時間のところ25日を経過したところで発生した事故につき、レンタカー会社が督促を行い盗難届も出していたこと等から、レンタカー会社の運行支配は失われたとしました。
ただ、レンタカーの場合、利用期間を過ぎても延滞料を支払えば済むことがほとんどであるため(契約上も延滞料の定めがある)、裁判例をみても、若干利用期間を経過した程度ではレンタカー会社の運行支配が否定されることは少ないです。大阪地裁平成5年9月27日判決(交通民集26-5‐ 1215)は、返還期間を4か月経過してもレンタカー会社の運行供用者責任を肯定しました。
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