過失相殺における立証責任とその適用は、交通事故訴訟において重要なテーマです。立証責任とは、過失相殺を主張する側が、相手方の過失を証明する責任を負うことを指します。ここでは、過失相殺における立証責任の基本的な考え方と、具体的な実務上の運用について解説します。
過失相殺において、加害者側(被告)が被害者の過失を主張する場合、被害者側に過失があったことを立証する責任は加害者側にあります。これは民法722条に基づくものであり、被害者の過失を証明できなければ、加害者側は過失相殺を主張することができません。
判例でも、この立証責任の原則は確立されています。例えば、最高裁判所の昭和43年12月24日の判決では、過失相殺を主張する加害者が、被害者に過失があったことを証明する責任があるとしています。この原則は、不法行為に基づく損害賠償訴訟においても適用されます。
過失相殺においては、立証責任が加害者側にあるにもかかわらず、裁判所が職権で過失相殺を行うことが認められています。これは、民法418条に基づき、裁判所が立証が不十分な場合でも、職権で過失相殺を適用できることを意味します。ただし、この場合も、被害者に過失があった事実は加害者側が立証しなければならず、裁判所が被害者の過失を一方的に認定することはできません。
実務においては、職権で過失相殺を行う場合でも、裁判所は当事者に対して適切な釈明を行い、被害者側が不意をつかれることがないよう配慮されています。また、加害者が過失相殺を主張しない場合でも、裁判所が職権で過失相殺を認定するケースは稀です。
過失相殺率を判断するためには、まず事故態様の事実認定が必要です。事故の具体的な状況が明らかにならなければ、過失相殺率の適用ができないからです。例えば、交差点での事故であれば、どちらの車両が信号無視をしたのか、一時停止を守らなかったのかといった具体的な状況が立証される必要があります。
立証責任を負う加害者側は、被害者の過失に関する具体的な証拠を提示しなければなりません。純粋な「絶対説」に基づく過失相殺の考え方では、被害者の過失の有無や程度を認定できれば十分とされていますが、現在の実務では、被害者だけでなく加害者の過失についても詳細に認定する傾向があります。
過失相殺率の認定基準は、実務において広く参考にされます。これに基づき、裁判所は過失相殺率を判断しますが、当事者は事故の類型に応じた過失相殺率を主張するために、必要な立証を行うことが求められます。例えば、一方の車両に一時停止義務がある場合、その車両が一時停止を怠ったことを立証する必要があります。
さらに、過失相殺率を修正する要素がある場合、その要素を立証する責任は、それを主張する側にあります。著しい過失や重過失がある場合、例えば、脇見運転や速度超過などの特別な事情があれば、その過失が立証されることで、過失相殺率が修正されることになります。
過失相殺の認定基準は、さまざまな事故類型に対応していますが、それぞれの類型ごとに立証すべき要素が異なります。例えば、交差点での出会い頭の事故では、一時停止義務違反や信号無視が過失相殺の主な争点となります。この場合、被告側は原告車両に信号無視や一時停止義務違反があったことを立証しなければ、過失相殺が認められない可能性があります。
また、事故態様が過失相殺率の認定基準に当てはまらない場合でも、加害者側が独自に被害者の過失を立証することが重要です。たとえば、標準的な過失相殺率が適用されない複雑な事故の場合、当事者は事故の具体的な状況や過失の度合いに基づいて個別の過失相殺率を主張し、それに基づいた立証を行う必要があります。
実務において、過失相殺率の認定基準が適用されることは一般的ですが、その基準が適用されるには、基本となる事故類型に該当する事実の立証が必要です。このため、当事者は、事故の基本的な過失相殺率を主張するために、基準に示された要素を立証しなければなりません。さらに、過失相殺率を修正するためには、追加の立証が必要です。
ただし、過失相殺率の認定基準がすべての事故に当てはまるわけではないため、特定の事案においては基準外の要素が考慮されることもあります。この場合、当事者がその特別な要素を立証しなければ、過失相殺率の修正は行われない可能性があります。
過失相殺における立証責任は、加害者側に課されており、被害者の過失を主張するには、その過失を明確に立証する必要があります。また、過失相殺率の認定基準が広く実務で参考にされる一方で、個別の事案に応じて適切な立証が求められることから、過失相殺を巡る立証は非常に重要です。
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